Cahier-Sonore
音の手帖
2023.05.21
幻想 - 執心鐘入 -
~がらまんホール作品〜
宜野座村がらまんホールの小越友也さんより委嘱を受けて作曲した作品が公開されました。
公開にあたり、音楽だけで公開するのか、もしくは何かしら別の表現を伴って公開するのかだいぶ悩みましたが、ある日に国立劇場で観た組踊『執心鐘入』からきっかけを得て、この組踊にアニメーションを付けて公開することになりました。
組踊をモティーフとすることに最初は敷居の高さを感じてはいましたが、結果的にとても良いものとして公開することができたと感じています。
《解説》
17世紀ドイツの碩学の一人であるアタナシウス・キルヒャーは「楽器のために適した"Stylus phantasticus"は、最も自由で、最も拘束されない作曲の方法である。」という文章を残しています。「音」は「言葉」の拘束から逃走することによって、幻想の中で翼を生やして自由に飛び回る。笛、箏、チェロ、そしてピアノという文化圏の異なる4つの楽器をまずは自由に用いて、あくまで「音」にすぎない「音」によって、自由に構成された抽象的な構造物としての音楽、「幻想」を成立させることを本作品で試みることにしました。その上で、私が創作の根幹においている「官能性」と「女性性」を表現することも本作品の作曲中の重要なモティーフでした。 |
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その結果出来上がった音楽に対してどのような媒体を付けるべきなのか非常に苦慮しましたが、ある秋の晩に国立劇場で観た『執心鐘入』からそのきっかけを得られました。この物語には狂気を持った女が出てきますが、数百年前に想像された狂気を内包したその幻想は、現代へ受け継がれてもなおその狂気を現します。閉ざされた幻想がふと開かれる時に、その幻想はリアリティの伴ったものとして現前する。そのような考え方からこの物語を採択し、一つの作品として仕上げました。 |